第2回 「世の風潮と戦う」とは何か
世の中には、その時々の「空気」があります。
みんながそう言っているから。
今はそれが常識だから。
早く結果を出さなければならないから。
気がつけば、私たちは知らず知らずのうちに、その空気に合わせて生きています。
代田秀雄さん(高33回)が提唱する「オルカン思考」も、実は単なる投資の話ではありません。
目先の値動きに振り回されず、長い時間で世界を見ること。
流行や熱狂に流されず、本質的な価値を信じ続けること。
その考え方の根底には、「世の風潮と戦う」という姿勢があります。
今回のお話では、飯田高校時代に打ち込んだ応援団活動を通じて学んだこと、金融の世界で感じてきた違和感、そしてこれからの時代を生きる若い世代への思いについて伺いました。
自分の頭で考えること。
流されないこと。
そして、自分以外の誰かのために力を使うこと。
それは、変化の激しい時代だからこそ、ますます大切になっているのかもしれません。
南信州には、派手さはなくても、自分の信じる道を黙々と歩む人がいます。
代田さんのお話は、そんな南信州の人たちが昔から大切にしてきた価値観にも、どこか通じているように感じました。
「世の風潮と戦う」とは、誰かと争うことではない。
自分の中にある軸を持ち続けることなのかもしれません。
そんなことを考えながら、お話を伺いました。
— 代田さんは、いまの世の中を見ていて、「なんか違うな」と感じることはありますか。
一番感じるのは、物事を短期で判断しすぎることです。
すぐに結果が出るか、すぐに役に立つか、すぐに儲かるか。そういう基準が強くなりすぎている。
でも、人の成長も、地域づくりも、資産形成も、本当に大事なものは時間をかけて育つものだと思います。
— 情報が昔よりずいぶん増えました。便利になりすぎて、かえって考えるのが難しくなった気もしますが、どのように感じていますか。
情報が増えたことで、むしろ自分で考えることが難しくなっている面があると思います。
SNSでも投資でも、みんなが言っていること、勢いのある意見に流されやすい。
だからこそ、自分の判断軸を持つことが大切です。
— 飯田高校の校歌にもある「世の風潮と戦う」は、なかなか強い言葉だと感じています。代田さんはこの言葉をどう受け止めて来られましたか。
「世の風潮と戦う」とは、世の中に逆張りすることでも、人と争うことでもないと思います。
その時代の空気や流行に流されず、自分の頭で考えるということです。
みんながそう言っているから正しい、みんなが買っているから買う、という姿勢ではなく、本当にそれでよいのかを考える。
それが、現代における「戦う」ということではないでしょうか。
— 人と違うことをするのは、少し怖い気がします。代田さんは、その怖さとどう付き合ってこられましたか。
完全に怖さをなくすことはできないと思います。
大事なのは、孤立して強くなることではなく、自分なりの考え方や原則を持つことです。
投資でいえば、長期・分散・積立という基本の型を持つ。人生でいえば、自分が何を大切にするのかを持つ。
原則があれば、周囲の空気に振り回されにくくなります。
— 代田さんのお話には、いつも「長い時間」という言葉が出てきます。なぜ長い目で見ることが大切なんでしょうか。
今の社会は、短期の成果を求める力が非常に強いからです。
しかし、人生も地域も投資も、短期では評価できないものが多い。
長期で考えるというのは、目先の変化に鈍感になることではなく、大きな方向を見失わないということです。
— すぐには形にはならないけれど、時間をかけて育つものは確かにありますね。代田さんはどんなものを思い浮かべますか。
時間をかけて育つ価値には、信頼、人格、文化、地域の誇りがあります。
これらは一朝一夕にはできません。学校の校風や同窓のつながりも同じです。
飯田高校の精神も、長い時間をかけて受け継がれてきたものだと思います。
— 代田さんが振り返ってみて、「これは飯田高校で身につけたな」と思うものはありますか。
飯田高校で学んだのは、簡単に人に流されないこと、自分で考えることだったと思います。
地方の高校ですが、視野は決して狭くなかった。むしろ、地方にいながらも外の世界を意識する空気があったように思います。
それは後に、金融や世界市場に関わる仕事をするうえでも大きな土台になりました。
— 飯田高校には「自分で考え抜く」空気があったということでしょうか。
あったと思います。
もちろん当時は意識していませんでしたが、飯田高校には、単に受験のために勉強するだけではなく、自分はどう生きるのか、社会とどう関わるのかを考える雰囲気がありました。
校歌の「世の風潮と戦う」という言葉も、その象徴だったのではないかと思います。
— 代田さんが打ち込んでこられた応援団が、いまは活動停止と伺いました。そのことについてどう感じますか。
応援団が活動を停止していると聞いて、率直に寂しさを感じます。
ただし、昔の形をそのまま復活させればよいとは思いません。時代に合わない上下関係や精神論があったなら、それは見直すべきです。
そのうえで、仲間を励まし、学校を鼓舞し、飯田高校の精神を形にする存在としての応援団には、今も大きな意味があると思います。
— 仮にこれから応援団が復活するとしたら、代田さんはそこにどんな価値を期待されますか。
応援団の復活に期待するとすれば、それは単なる伝統復活ではありません。
声を出して仲間を励ます、自分以外の誰かのために力を尽くす、学校全体の気持ちを一つにする。そういう文化を、今の時代に合う形で受け継ぐことに意味があると思います。
「世の風潮と戦う」という言葉も、頭で理解するだけでなく、身体を使って表現し、仲間と共有することで、より深く受け継がれるのではないでしょうか。
— 最近は金融教育という言葉をよく聞きますが、代田さんが考える「本当に必要な金融教育」とはどんなものでしょうか。
金融教育は、単に投資のやり方を教えることではないと思います。
お金とは何か、リスクとは何か、将来をどう考えるか、自分の人生をどう設計するかを学ぶことです。
その意味では、金融教育は人生教育でもあります。
— 代田さんは、お金そのものよりも、その先にある自由を大切にされているように感じます。お金と自由の関係については、どう考えていますか。
お金は人生の目的ではありません。
ただ、お金の不安が大きすぎると、人は自由に考えたり、挑戦したりしにくくなります。
だからこそ、お金を増やすこと自体を目的にするのではなく、自分らしく生きるための土台として整えることが大切です。
— もし今の若い人たちにひとつだけ伝えるとしたら、どんな力を身につけてほしいと思いますか。
自分の頭で考え続ける力だと思います。
正解が一つではない時代ですから、誰かが与えてくれる答えを待つのではなく、自分で問いを立て、自分で判断する力が必要です。
そのためには、短期の結果に一喜一憂せず、長い時間軸で物事を見る姿勢も大切です。
— 最後に、飯田高校の在校生、同窓生に向けて、代田さんからメッセージをお願いします。
飯田高校の「世の風潮と戦う」という言葉は、今の時代にこそ意味があると思います。
それは、世の中に反発することではなく、流行や空気に流されず、自分の頭で考えることです。
南信州で学んだこと、飯田高校で身につけた精神は、外の世界に出ても必ず力になります。
在校生には、地元に誇りを持ちつつ、世界に目を向けてほしい。同窓生には、次の世代を励ます存在であってほしいと思います。
取材を終えて
第1回で代田さんは、南信州には「急がない強さ」があると話してくれました。
そして今回、その言葉の意味が少しわかった気がします。
急がないというのは、変化を拒むことではない。
昔に戻ることでもない。
目先の流行や評価に振り回されず、自分たちが本当に大切にしてきたものを見失わないことなのだと思います。
南信州には、派手な観光地はありません。
世界に誇る大企業も多くありません。
それでも、この地域には長い時間をかけて育まれてきた教育があり、文化があり、人と人との繋がりがあります。
代田さんが語る「長期投資」の思想は、実は地域づくりにも、人づくりにも通じていました。
本当に価値のあるものは、時間をかけて育つ。
人の信頼も。
学校の校風も。
地域への誇りも。
そして、次の世代を応援する気持ちも。
取材を通じて感じたのは、代田さんの考え方の根底には「自分で考える」という姿勢があることでした。
周囲に流されず、自ら判断すること。
長い時間軸で物事を見ること。
その姿勢は、投資だけでなく人生や地域との向き合い方にも通じるものだと感じました。
飯田高校で学ぶ後輩たちにとっても、多くの示唆を与えてくれるメッセージではないでしょうか。
著書「オルカン思考」「人生を変える長期投資」につきましては、代田秀雄さんより飯田高校図書室、飯田高校同窓会、飯田市立図書館伊賀良分館に寄贈されています。
(高33回 中京支部 所澤 真 )









