高8 塩澤千秋 (カナダ カルガリーから)
 氷河をわたる風(2) Lady’s Slipper
(撮影2001年6月8日)
 ロッキー山の麓に住んでいると、五月頃から何となく落ち着かなくなります。山の雪が解け始めるとその後から高山植物が花を開き始めるからです。夫々の花の寿命は短かいので、いちばん綺麗な時に行き会えるかどうか気になるのです。愛しい者の所に通うが如く頻繁に山へ行く事になります。
 花は低い所から上方のアルペンメドーへと段々に咲いて行きます。春一番、雪の溶けたばかりの明るい森の中に見られるのが、初めにお届けした欄の仲間、Fairy Slipperです。 そして次に咲くのがここに紹介するLady’s Slipperです。春のロッキーの森は、色取り取りの妖精のスリッパーが脱ぎ散らされているような印象を受けます。この花も明るい森やブッシュの中に咲きます。草丈は10cmから15cm、花は2cmから3cm。場所によって色々です。ほろ武者が風を切って走るのに似ているので、日本では「敦盛草」と呼ばれるそうです。木靴に似た花の感じからLady’s Slipperの名前が付けられたようですが、こんな綺麗な花にスリッパーとはなんとセンスの無い名前かと、いちゃもんをつける人もいます。Slipperは日本人が考える「スリッパー」とは少し違うようです。緑と黄金色が何とも言えない素晴らしいコントラストをつくります。そんな花の間を、氷河に冷やされたロッキーの風がスーッと通り抜けてゆきます。すると花の袋の口から妖精がひょいと顔を出すとか。