高8 塩澤千秋 (カナダ カルガリーから)
 氷河をわたる風(3) Glacier Lily

 日本はかなり暑いとの事ですが、飯田は山に囲まれた中、少しは過ごし易いでしょうか。カルガリーは30度を越す事はめったに無く、日中は23度前後、夜は10度以下になると言う涼しい夏を送っています。暑い夏にあえいでいる日本の方には申し訳ないような気がします。しかし、涼しいために植物があまり育たず日本のような美味しいものは食べられません。暑くても美味しいもののある日本が恋しくあります。
 (写真1:2001年7月1日Ptarmigan Circleにて撮影)
  カナナスキス・カントリーは熊の王国です。グリーズリー・ベア-、ブラック・ベアー、その他ムース、ビッグホーンシープ、狼など野生動物が一杯住んでいます。観光客は殆ど来ません。山歩きの好きな人たちが密かに愛している地域です。高山植物も豊富です。 今年、六月十七日、もうボツボツGlacier Lily(氷河のユリ)の咲く頃かなと出かけてゆきました。Ptarmigan Circleが目的地です。登り易い所、直ぐ森林限界の上に出られます。ところが行ってみて驚きました。登り口の森の中から上のお花畑まで新雪で覆われていました。深いところは腰くらいあります。前日カルガリーは大雨でした。きっとここは吹雪だったのでしょう。花は殆ど雪の下。雪の下から健気に頭を持ち上げているGlacier Lilyが二・三本。二週間後、7月1日にもう一度行きました。雪は殆ど解けて、多くの高山植物が花盛りでした。
 (写真1)の黄色い花が“Glacier Lily”です。カタクリの親戚です。日本には紫の花を咲かせる姉妹がいます。下の森には30cmになるのもありましたが、このあたりの高いところでは15cm位、高山性の小さい草丈です。

(写真2:1999年6月29日Peyto Lakeにて撮影)
 (写真2)はペートー・レイクで撮りました。花弁の色が濃くおしべの色も少し違うようです。ペイトー氷河を渡る風に緩やかに揺れていました。
 (写真1)の雪が残っている遠方の山はMt. Tyrwhitt、その裾からPocaterra Valleyが広がります。二年前そこで、グリーズリー熊の母子に帰り道を塞がれて往生しました。実はその年もPtarmigan Circleに写真を撮りに来たのでしたが、下から見たら登山道の直ぐ傍の斜面にグリーズリー熊の母子が見えました。危険であるので登るのを諦めて、反対側の谷に入りました。花の写真を撮って意気揚揚とひきあげて来ました。ところが途中、前方三百メートル、帰りのトレイルの直ぐ下に別のグリーズリー母子が餌をあさっているではありませんか。ぞーっと致しました。週日で私達二人以外には誰もいません。腰の力が抜けていくのを感じながら、潅木の中に隠れた三十分の長かった事。それでもビデオを廻し、写真を撮ったのですが、連れに凄い目で睨まれ、熊よりも怖くありました。熊親子様が谷底にお降り下さるのをお待ちして、逃げ帰りました。その速さは往きの三倍くらいあったでしょうか。当分この谷には入らないつもりです。