高8 塩澤千秋 (カナダ カルガリーから)      

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 氷河をわたる風(4) Sweet vetch
 ここカルガリーは、日中の気温15度、夜は8度位になってきました。なんとなく夏が過ぎて秋の気配です。夜北の空にうすいオーロラが出てくるようになりました。これから、夜が段々長くなるのでオーロラも観察し易くなります。
 この夏は日本から猛暑であると言う悲鳴が聞こえてまいりましたが、今でも残暑が厳しいのでしょうか。30度以上になる日が数日しかない国に住んでいるのが申し訳ないように思います。しかも、日中30度を越しても、夕方になればたちまち気温が10度位に下り寒くなります。ましてや氷河のある所ですと昼間でも寒さにしびれます。
                (写真1:2001年8月撮影)

 

 氷河も見下ろして澄まして咲いている花はSweetvetch蓮華草に似た花。日本からの便りによるとオヤマノエンドウと言うそうです。草丈は20cmほど。背後の氷河はSaskatchewan Glacierコロンビア氷原から下って来る氷河の一つです。雪上車などに乗れるAthabaska氷河の近くですが、一般の観光ルートからは見えません。Parker Ridgeと言う小高い丘に登って撮りました。 この辺りで熊が出た話は聞きませんが、一段下の谷や森では黒熊を良く見かけました。この辺りの熊は観光ずれしていて危険です。
 なんと言っても野生熊の話題はこの間紹介しましたKananaskis Countryが尤も豊富です。この場所は、来年サミットに使われそうで、グローバル化反対派に荒されるのではないかと大騒ぎしています。ここで起きた話をしましょう。

「熊との出逢い」
 Aさんはカルガリー大学博士課程の学生。日本から来ました。優雅な独身生活を送っています。山が好きで、カルガリー大学を選んだのもロッキー山脈に近いためであったかもしれません。よくロッキー山で単独行を試みます。そんなある日の山歩き、Aさんは熊との出逢いを誠に劇的にいたしました。
 カナナスキスのエルボーレイクから出発するトレールは、ブッシュに覆われた、上がり下りの激しい斜面です。森を抜けてひょいと頭を上げると、正面からグリーズリーベアーがやって来るではありませんか。向かい合ったまま、両者ともしばらく歩みを止めました。Aさんの心臓は早鐘のごとくに激しく打つ。突然、熊が彼に向かって走ってくる。ああ、これで俺の三十年の人生も終わりかと諦めた時、熊は、はたと立ち止りました。そして、じっとこちらを見ています。ほっとした瞬間、再び、熊はこちらに向かって突進してきた。そしてまた止る。こんな事を繰り返していて、すぐに襲いかからない。
 少し冷静になったAさんはトレールから外れて、斜面をよじ登り熊殿に道を開け渡しました。熊殿は初め疑わしそうに、彼の方を見ていましたが、のそりのそりと、いかにも余裕のあるような態度で、トレールを下ってきました。そして、彼が震えて立っているガレの下まで来て、立ち止り、じろりと見上げました。ぞっとした瞬間でありました。しかし不思議な事にそのまま行き過ぎて行ってしまったのです。助かったと思った瞬間、腰の辺りの力がすっと抜けて、そこにへたり込みました。冷や汗びっしょりの頬を氷河からの風が優しくなぜていったそうです。
 この時、Aさんは、熊と付き合うには、町の不良と付き合う要領でゆけばよいと言う確信を得たそうです。要するに逆らわずに、道をあけてお通り願えばよい。これで怪我もせず、命が助かるならいくらでも譲りましょう。熊だって、人間を信用せずに怖がっているのだから、案外正解かも知れません。逃げたり、抵抗したりしていたら、確実に殺されていたでしょう。
 しかし、この話を、人はなかなか信じてくれません。その時の写真でもあったら信用するなどと、無茶を言うやからもいます。こうして疑われるのも無理ではないのです。熊の事故は、大概、殺されるか、大怪我をした話ばかりだからです。でも公園のワーデンは、熊にあった時、静かに話しかけて、しばしば、難を逃れるといいます。だから、Aさんのやり方もまんざらでは無かった訳です。しかし、カナダの熊は日本語を理解するだろうか。これはまだ疑っている連中からの発言です。