高8 塩澤千秋 (カナダ カルガリーから)
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氷河をわたる風(5) Shooting Star
(写真1:2001年6月8日撮影)
流れ星。先端におしべが黒くかたまり、その元を黄色いバンドが絞めています。その後ろに白い輪で束ねられた5弁の花びらが燃え上がります。晴れ上がったロッキーの夜。空から落ちてきた流れ星。夜の赤石山の上を飛んだかもしれません。空は故郷まで続いています。オープン・フィールド、開けた原っぱに咲きます。天竜下りの船のような肉厚の葉っぱの重なった真中から赤い茎が伸び、その先端に幾つかの小さな赤紫の花が枝分かれし下を向いて咲きます。中には横を向いたり、上向きになったり、空に乱れ飛ぶ流星を思わせます。そんな様子から「ながれぼし」等という名前が付けられたのでしょう。場所によって大きさは変わりますが、ロッキーの裾野では草丈は10cm、花は1.5cmと言った所でしょうか。直射日光の当たる原っぱに咲くのが普通ですが、この花は明るい藪の縁に咲いていて余りに色が鮮やかだったので思わずシャッターを押してしまいました。妖精が宇宙から乗ってきた流れ星、乗り捨てていったものが花になったのでしょう。この流れ星は氷河からの風にチロチロと揺れます。
踊るグリズリー
熊の王国にもShooting Starが咲いています。そんな王国に入り込んだTさんの話です。Tさんはカナダで観光ガイドをして暮らしを立てていますが、日本の大学で地質学を専攻しました。カナダへ来たのは金鉱を探す夢があったからです。だから、今でも夏になると砂金を探しに、ユーコンの奥地に入って行きます。
砂金は川やクリーク沿いに探して歩く。特に滝壷では発見する確率が高いと言われています。ところで、ロッキー山脈の奥地の夏は野生動物の活動期なのです。鹿、ムース、熊などは川沿いに活動していて、ばったり行き遭う可能性が高い。大概は動物が人間を先に見つけて、避けるらしいのですが、川沿いの場合には、水の音に邪魔されて、両方共に気が付かず悲劇になる事があります。
熊は大変新しがり屋で、見知らぬものに興味をかきたてられるようです。その日Tさんはユーコンの奥地まで入り込んでいました。いつもの通り、目立った収穫も無く、川辺にキャンプをしました。北極圏の夏の日は長く、太陽はいつまでも地平線をはっていて中々沈みません。夕食を済ませ、食料は熊の手の届かない木の枝に吊り下げました。食事もそこでしました。勿論、テントから離れたところです。川の流れは緩やかで、静かです。
Tさんはテントの中でハーモニカを吹き始めました。金鉱を探しに出る時、何時も携帯しかなりの腕前です。暫らくして、ひょいと顔を挙げた時、テントの隙間から何か茶色のものが目に入ったのです。テントから五、六メーターのところにグリズリーが座り込んでいるではありませんか。赤ん坊が座るように腰を下ろし、ハーモニカに合わせ楽しげに体をゆすっているのです。Tさんは身の危険も忘れて見入るばかりだったそうです。Tさんの演奏が終わると、グリズリーも満足したように、森の奥へ帰って行きました。熊の楽しげな様子今でも目に浮かぶそうです。