高8 塩澤千秋 (カナダ カルガリーから)     

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 カルガリーはクリスマスまで厳しい寒さでしたが正月になってから穏やかな日が続いています。気温も下がったとしてもせいぜい氷点下10度くらい、暖かな冬です。雪もそれ程ありません。一寸物足りないくらいです。しかし冬のスポーツは盛んです。カルガリー大学には日本のスケートチームがオリンピック前のトレーニングに来ているようです。楽しみな選手が居ると言う評判です。  (January 20, 2002)

 氷河をわたる風(9) Flowers of Ice 

 北国では冬も花が咲きます。氷の華です。夏の山に咲く花は可憐で温かみがあって、氷河からの風に揺らいで咲きますが、冬の華は硬い結晶、光に当たるとたちまち崩れて落ちてしまいます。極限まで美しく、脆い花です。
 11月25日はインデアンサマー、冬にしては暖かい一日でした。それが太陽が落ちると途端に気温が下がり氷点下20度になりました。その夜、ボー川の辺りから発生した霧氷が段々発達してカルガリー市を覆い尽くしてしました。そして26日の朝美しい氷の華、樹氷が咲きました。街路樹の楡の小枝についた樹氷は日本の春咲く桜の花のように見えませんか。
自宅前の楡の並木に咲いた氷の華。一寸逆光気味に取ってみました。
         (3枚共 2001年11月26日撮影) 

向かいの家のWillow birchにも綺麗に氷華が咲きました。こうして見ると本当の柳のように見えてきます。

 

 

 

 

向かい側の家の前のWillow birchを飾った樹氷、青空に
映えて壮観です。アルバータの典型的冬の空です。

 樹氷と雪積の違いは木の枝への付き方で分ります。雪は上から降るためでしょうか、主に枝の上側に積もって下側に枝の黒さがアクセントをつけます。一方、樹氷は空中に漂う霧氷がへばり付く為でしょう、枝全体が氷の結晶にべったり囲まれ、砂糖菓子のように中の枝が見えません。また雪の結晶は小さくて肉眼では見難いですが、樹氷の結晶は大きく針のようです。
 青空を背景にするとこんな美しい華ですが、太陽の光に当たると氷点下17度でもほろほろと散り始めます。薄闇の中、氷河からの風では中々散らなかった氷華も光に弱いのはドラキュラー伯爵に似ています。

 

 

樹氷を大写しにとって見ました。木の枝が氷で丸ごと包まれているのが
お分かりでしょうか。ジャスパーの近くで秋と冬の境を見た思いでした。

 俺の縄張りだ
 夏はロッキー山、ハイキングにもってこいの季節です。北半球しかも北寄りに位置するため、夏はめっぽう日が長い。夏至の頃ですと朝三時ごろ明るくなり夜十時頃暗くなります。こんな条件の良い時期ハイキングは勿論のこと、マウンテンバイクに乗って、かなり高い所まで登る人も出てきます。モレインレイクから林の中を通って、レイクルイーズに抜ける道は登り下りが適度で、バイクにはもってこいのルートです。
 Mさんはこのルートの登り坂を下を向いて、バイクでひたすらこぎ登っていました。ほとんど坂を登り切った所で、ひょいと顔を上げました。目の前に大きなグリズリーが立っているではありませんか。反射的に自転車の方向を変え、坂道を思いっきり下る。気がつくと、尻を舐められ兼ねないほど近くを、グリズリーが走ってくるではありませんか。食べられる。後は無我夢中。どうやって坂を下りたか記憶にありません。とにかく、キャビンのあるところまで達した時、後ろで熊が立ち止るのを感じました。熊が立ち止ったのは、そこまでを自分の縄張りと心得ていたためでしょう。熊が生活するには、食料の関係で一定の面積を確保しなければなりません。その縄張りを守るために熊は命を賭けるのです。多分人間も、熊にとっては侵略者であるのでしょう。そのために、追いかけられたんだろう、あのルートにはもう絶対に近づかない。思いだしただけでも身の毛がよだつ。Mさんは今はそう思っています。それにしても全力で坂道を走って、よくも転ばなかったものです。あの時懸命にペダルを漕ぐMさんを後ろから支え、転ばないよう押してくれたのは何だったのでしょうか。冷たい氷河の風が汗びっしょりのMさんを優しく包んでくれました。