高8 塩澤千秋 (カナダ カルガリーから)      [塩澤さんへの質問や感想はこちらへ] cshio@shaw.ca

 日本はもう桜が散り始めているというニュースを聞きましたが飯田もそうでしょうか。桜の開花が10日も早かったそうですね。これは多分東京の話で飯田はきっと真っ盛りでしょう。そんなニュースを聞いた頃のカルガリーは冬の名残の寒波が突然襲いかかり、氷点下20度以下の気温が一週間以上続き、遂には氷点下30度の日が2日ありました。その上雪が降り冬がもう一度来たような感じでした。暖かかった1月を反省して、今ごろ本物の冬を持って来ましたと言うような、言い訳じみた気温です。それでも昨日から急に気温が上がり日中5度、夜間氷点下10度ほどの“暖かい”冬になりました。樹氷が咲いていますが、本物の花の咲くのはまだずっと先の話です。   (March 28, 2002)

 氷河をわたる風(11) Northern Bog-laurel

  6月の終わり頃までPayto Lakeの展望台の斜面は深い雪の下です。  この雪が解け地面が顔を出すと花々が一斉に咲き始めます。片栗の仲間黄色い花をつけたGlacier lily, Alpine crocus, Mountain feather, Spring beauty、そしてこの写真のNorthern Bog-laurel等々、次々と花開いてきます。Northern Bog-laurelはアルペン型で草丈は5cm位、直径1cm位 の花はとても可憐です。りんごの花に似ています。もしかしたらバラ科かも知れません。7月の上旬、Glacier lilyが終わった後のほんのつかの間咲きます。

   (Payto Lake展望台斜面が終わる辺り、湿原のそばで撮影しました。1999年7月19日)

春1.

 カルガリーの春は淡い。冬が厳しく、長すぎるためかも知れません。重々しい冬と、短いながら暑く燃え上がる夏との間に挟まれた、薄いパッキングのような春です。風は、切るように冷たい。周りの丘は、大半、雪に覆われています。街の中でも日影には雪が残っています。それでも、日当たりの良い庭先には、水仙が咲き、チューリップの芽が出始めています。遠くのロッキーの山々は未だ純白の雪に覆われたまま。
  バンフとジャスパーを結ぶ、コロンビア・アイスフィールド パークウエーは、もうドライブに大丈夫だろうか。その間にある沢山の湖は、まだ、底まで凍って、雪に覆われている事だろう。氷河を落ちるなだれも今が最もあでやかな時です。コロンビア・アイスフィールドの近くで見た氷河のなだれは凄かった。腹の底まで響く轟音が谷を渡ります。大量の雪がスライドし、滝となって懸垂氷河を落ちます。しばらくすると、谷の底から、雪煙が猛然と湧き上がり、谷を埋め尽くす。春の日差しのほんの少しの変化が、雪を転がし始めるのでしょうか、スライドして落ちる雪の量に比較して、立ち昇る雪煙のすさまじさ。
 こうした風景にも、近年、少し変化が見られるようになりました。日本人の姿が、この季節にもちらほらするようになった事です。かつて、ロッキー山では、日本人の姿が見られるのは夏の団体旅行か、冬、スキー場で見られる若い人でしかありませんでした。しかし最近は、1年を通して、このロッキー山に、日本人の姿が見られるようになって来たのです。
   (写真;初春のDome Glacier, Columbia Icefield から下って来る氷河の一つです。1973年撮影)
 アメリカにいた頃、長期滞在者の奥方がホームシックに掛かると、一時帰国させることを治療法としている人がいました。我々には不可能な、随分高い治療法です。奥方に、どうにも我慢できないと言って、全面的引き上げを主張された留学生は、帰国準備と言う口実を与え、一ヶ月の予定で、彼女を日本に帰らせました。所が、不思議な事に奥方は早々に日本を引き上げて、亭主のところへ帰ってきたのです。そして二度と日本に帰るといわなくなりました。日本での人間関係の複雑さ、煩わしさに完全に参ってしまった結果だったようです。
 有難い事に、カルガリーではこのような高額な治療費を払わなくともホームシックは治ります。カルガリー空港かバンフに行けば良いのです。溢れんばかりの日本人と日本語、日本的行動に満ち満ちているからです。その様子を垣間見ただけでホームシックは吹っ飛んでしまいます。日本人は、海外にまで、日本と日本人そのものを背負ってやって来ます。団体でどかどかとやって来ます。団体の中だけで世界を作ってしまい、訪れた社会に対して薄い幕をはってしまいます。空中をさまようシャボン玉のように、カナダの社会の中をひたすら漂って行くのです。これからこんな様子をしばらく観察してみたいと思います。腹を立てないでしばらくお付き合いください。