高8 塩澤千秋 (カナダ カルガリーから)     

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 カルガリーから100?離れたロッキー山中、カナナスキスで行われたG-8首脳会議も無事に終わったようです。多くの反対グループが集まって集会が計画されたり、テロの危険もあるということで市警察、州警察、軍隊まで出て厳重な警戒がしかれました。交通が一切止められ関係者しか入れなかったためでしょうか会場では一切騒ぎは起こらなかったようです。  会議の評価はさておき、日本の小泉首相はベストドレッサーとして評価されました。その反対にワーストドレッサーにされたのは我がカナダの首相、Mr. Lean Chretien。素朴な感じの田舎のおっさんです。しかし、カナダそのものを代表し、またなんとなくロッキー山の雰囲気があります。
 カルガリーや他の都市ではデモなどあったようですが、前回のようにあれはしなかったようです。集会場所が会場から100?離れていては気勢も上がらないと言うものでしょう。カナナスキスの自然もおかげさまで黒熊一頭が誤って射殺されただけで、荒らされずにすんだようです。詳細は分かりませんが自然保護団体はG-8サミットなどをこんな所でやらねば黒熊も犠牲にならなかったものをと怒っています。しかし、なんと言っても貴重な自然が損害を受けずに済んだのにはほっとしています。7月1日はカナダディー、K―Countryにも入山が自由に出来るようになります。
     写真は6月のカナナスキスです。(June 29, 2002)

 氷河をわたる風(14) Saxifrage & Spotted Saxifrage

  雪ノ下の親戚のこの花は、プロフィールにすると大きな花に見えますが、本当は5ミリ足らずの小さな小さな花です。高山性で草丈も10センチから20センチです。幾種類かありますがここでは二種類お見せします。赤味掛かった鳥の顔のような花はSaxifrage、森の中、小川の流れに沿って水に濡れた苔の中から赤い茎に支えられて米粒のように花が咲いていました。  白い花弁に赤いスポットのある花は姿の通りSpotted Saxifrageと呼ばれます。日当たりの良い岩場に密集し花輪のようになっているのもありました。Lake Louiseの裏側に聳えるMount Templeを背景に咲いているのはこの花です。ジグザグの急斜面をSentinel Passに向かって登る途中で見つけました。山の側面にへばりついたTemple Glacierから吹き降ろす冷たい氷河の風に細かく震えていました。この峠に達すると向かい側はParadise Valley斜面にはこの峠の名前となった岩の塔が衛兵のように並んでいます。故郷ではあの人の屋敷のうしろ日陰の湿った所にひっそりと咲いていたように思います。

1)写真1、Galatea Creekを登り湖から出てくる小さな小川の岸で撮りました。
1998年7月12日撮影。
2)写真2、同じ Galatea Creek、湖を越えてさらに登り、森林限界線を越えると岩場になります。幾つもの輪になって咲いていました。
1998年7月12日撮影。
3)写真3、Moraine Lakeより登りLarch Valleyを越え、Sentinel Pass最後の急斜面、ジグザグ坂の途中で撮影。背後の山はMount Templeの中腹の岩場です。この場所は海抜2000m、峠までもうチョッとです。
        2000年8月11日撮影。

春4. 走り回る日本人
 Bow Lakeは弓型の湖です。湖のどん詰まりはBow Glacierによって塞がれています。ロッキー山脈に多い、典型的な懸垂氷河。山頂に発達してワプタ氷原からクローフット山とセントニコラス ピークの間のコルから岩肌にへばりつく様にごつごつとした氷塊が波を打って下方へと続きます。  下方にはしぶきを飛ばした形のまま凍結したボー滝が静止しています。弓の中央辺り、赤い屋根のナム・テ・ジャー・ホテルの岸辺に立つと、ボー氷河とボー川に流れ出る河口まで、湖の全貌が見渡せます。この湖は六月の終わりまで凍結しています。
 六月の終わり頃バンフで国際免疫学会がありました。イスラエルのワイツマン研究所より、招待講演者としてフェルドマン教授が招かれていました。ワイツマン研究所留学時代指導をしてくれたセラー教授の研究室の一階下に研究室を構える、細胞免疫学の主任教授です。教室は違ったけれど、教授自身にも、また教室の研究員にも何かと世話になりました。バンフには教授婦人も一緒に来られていました。その日学会は午前中のみ、午後は自由行動、即ち観光のために開けられていました。教授夫妻は何の予定も無いとの事、ロッキー山中、ドライブに引っ張り出したしだいです。
 ボーレイクの岸辺に来ると教授はその景色が気に入って座り込んでしまいました。しばらく見とれていましたが、そのうちに彼はスケッチを始めました。湖はまだ氷に覆われていますが、岸辺は所々氷が溶けています。そんな中に体長1m以上に育つノーザンパイクの稚魚がのんびりと浮かんでいるのが見えます。黒っぽい体色で、魚形は幅に比べて体長がやたらに長く成魚そのままです。尻すぼまりの潜水艦の様です。覗いて見ると氷の下にかなりの数いる様子。水温が低いためか、魚の性質か殆ど動きません。
 ロッキーでも春の光は暖かい。周りは雪と氷に閉ざされているとは言え眠気を誘われる暖かさです。スケッチに夢中になっている教授の横に、ごろりとひっくり返り昼寝を決め込みました。広大な静けさにしばらく浸り、吸い込まれるような淡い青さの中空に目をやる内に眠りに入る。
 突然、沢山の人が駆けて来る足音が聞こえました。何事かと起き上がると、今着いたばかりの観光バスから、この時期には珍しい日本人の団体が下りてくる所でした。若い集団が先頭に立って水辺をめがけて駆け足でやって来ます。彼らは岸辺に立ったかと思うと、手に手にカメラを構えて一斉にシャッターを押します。四・五回シャッターを押すとさっと身を翻してホテルの土産店へ駆けて行ってしまいました。ほんのしばらくすると、みやげ物を抱えて飛び出してきました。そんな観光客を詰め込んだバスは再び風の如くに去って行ったのです。この間十分あっただろうか。
 「おい、今のは何だ」と教授が驚きの顔で尋ねる。こんな珍現象は説明の仕様が無いのです。少ない経費で最大限の場所を訪ねようとする観光旅行であるので、こうなってしまうのでしょうか、  気の毒になります。カメラのファインダーから風景を見るだけで、その中に浸って味わう所までは到底望めない時間です。大忙しで資料を写真としてかき集め、日本へ帰ってからゆっくりと見て楽しむのでしょうか。好きな所に座り込んで昼寝を決め込む。または、スケッチをするという自然の楽しみ方もあれば、多くの場所を走り周って個々の場所をさっと捉える楽しみ方もあっても良いかもしれない。日本の旅行者はどちらかと言うと後者が好みのよう。しかし、せわしい事です。
 ロッキー山は車で通りすぎても強烈な印象を与えてくれる所ですが、しかし、ゆっくり足で歩くとまた格別な味の出てくる所でもあります。走ってばかりいずに、何処かでゆっくりとロッキー山を味わうための時間を持つ事が出きる様にと、観光バスの残していった排気ガスを嗅がされながら彼らのために祈ったことです。
 こうした姿を見せられると、何時もチャンスを追いかけて息せき切って走り回る日本人は、本当に後世に残るようなものを作るために、真の能率を上げているのだろうかと首をかしげたくなります。気持ちばかりあせって、走り回り、実になる物を手に入れてないのではと心配になって来るのです。

写真1、八月のボーレイク、ナム・テ・ジャー・ホテルの岸辺からボーグレーシャーを写しました。日陰に入っていますが
     白くボー滝が見えます。冬になるとこのまま凍ってしまいます。 (2001年8月28日撮影)
写真2、夏の終わりロッキーに咲く最後の花、Mountain Fireweedをボーレイク湖畔に見つけました。背後の氷河は
     Crowfoot Glacierです。このしたからボー川が流れ出しています。 (2000年8月20日撮影)