高8 塩澤千秋 (カナダ カルガリーから)     

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  日本は寒波に襲われて吹雪のところが多いとか。飯田はどうですか。きっと雪の覆われている事でしょう。カルガリーは紅葉も既に終わり木々は丸坊主、昨日降った雪が積っています。まだ本格的な冬ではないので雪は湿っています。自動車が近づく時には注意しないと泥水を浴びせられます。しかしロッキーの山はもうすっかり冬化粧です。家のベランダから見る山は真っ白です。9月末にロッキーで撮った写真を一枚入れておきます。Athabasca氷河から撮った吹雪の中のAA氷河です。この凄まじい顔を見てください。先週、久しぶりにロッキーに行ってきました。
 (November 10, 2002)

 氷河をわたる風(18) Kinnikinnick

  Heath familyに属する花。Kinnikinnick はIndian名、ヨーロッパ人はAlpine Bearberryと呼びます。別名はその他幾つかあります。Kinnikinnickを正確に発音しようとして舌をかまないで下さい。これはインデアンの言葉で‘混ぜ物’という意味だそうです。Indianはこの葉を乾してタバコに混ぜて喫煙しました。低地の松林の中、ロッキー山のAlpine meadow から北極圏のツンドラにかけて、小さな濃い緑の肉厚の葉を広げ、小さなベルのような花をつけてマット状に密生します。草丈は10-20cm沢山の枝をつけ、卵形の葉は6-15mm、花は白からピンク色をしていて大きさは5mm位の長さです。秋になると直径5-10mmの小さいりんごのような赤い実をつけます。

カルガリーのボー川のほとりでも見つけました。  インデアンはこの小さな植物を色々に使ったと言われます。実は生だと苦甘く口をつぼめるほどですが、熱をかけると甘くなります。クリーやチペウイ族はこの実をラードで料理してジャックフィッシュやホワイトフィッシュの卵と混ぜ、更に白樺のシロップで甘くして食べるそうです。  ユーコンのアサパスカン族は煮てから固形油と砂糖で揚げて食べます。残念ながら食べられるとは知らなかったので自分では試していません。葉には高濃度のタンニンがあって皮なめしに使ったとも言います。ただ、この葉のお茶は毒性があり飲みすぎると胃や肝臓障害を起こします。特に子供には良くないようです。
 Kinnikinnickは野生動物にとっても重要な植物のようです。秋に稔る実は熊野の好物であり、葉は鹿や野生の羊の秋から冬にかけての食料になります。こんな可憐な花をつける小さな植物が極地や高山に住む人間や野生動物の厳しい越冬に力を貸してきたようです。

写真1、Athabasca氷河の向かい側のがれ場に咲いているのを見つけました。この辺りは夏American Bighorn Sheepが群れているのを見かけました。(1999年6月29日撮影)

写真2、花と実が一緒に付いているのを見つけました。カナナスキス、Upper Lakeの近くの山、Indifatigableに登る途中の岩場に咲いていました。足場の不安定な所でびくびくしながら撮った事を思い出します。(2001年6月9日撮影)

写真3、赤い実と濃緑色の葉。日本の榊のような感じです。ボー川の川岸、松林の中で見つけました。その辺りジュウタンのように密生していました。(2002年9月15日撮影)

夏02 カルガリー空港

  アルバータ州の空は限りなく広い。カルガリー空港に立つと、西側がロッキー山脈で塞がれているだけで、あとはすべて地平線。市街地を出ると小麦畑と牧場がうねりながら果てし無く続きます。アルバータは晴天の多い地域ですが、雨の日も全天が雨雲に覆われることは少ない。遠くの黒い雨雲の下白い筋となって雨が地上に落ちかかっているのに、一方、日がさんさんと照っている所もあるのです。そして背後では猛烈な稲光と雷鳴。それに伴って雹を伴ったものすごい雨。その向こうに昼の月が見えたりします。あらゆる空の現象が一度にあちこちで起きています。アルバータの空はそれ程広いのです。
 六月下旬のある日、カルガリーが晴天であったので日本からのお客さんを連れてロッキー山に出かけました。ところが、公園の入り口に着くと雨が降り始めました。国道一号線そしてロッキー山をぬって走るスカイライン93号線を通ってコロンビア アイスフィールドまでの百五十キロ近い道程は篠つく雨。道路しか見えず、おまけに帰りは雪となり車がスリップし始め命からがら逃げ帰りました。ところが、公園を出ると空には雲ひとつ無くカルガリーはその日一滴の雨も降らなかったとの事でした。連れて行ったお客さん、日ごろよっぽど悪事を働いていて、天に逆らっているのではなかろうかと勘ぐってしまいました。日ごろの悪事の報いをこの日受けたのでしょうとからかったものでした。大変運の悪い人でした。とにかくアルバータの空は広いので一箇所の状況が全てに当てはまらないのです。そんな経験の後は、カルガリーが晴れていても百キロ先、ロッキー山の上空の様子を見てから出かけることにしています。
 それはさて置き、空港はカルガリー市の東北の角にあります。南西の方角にダウンタウンが、西に遠くロッキー山脈が北から南へと連なっています。私達がカナダに来たばかりの三十年前は、麦畑の中に滑走路が一本だけの田舎空港でした。ところが観光ブームに乗って整備され今はれっきとした国際空港です。アメリカ、ヨーロッパへの直行便も出ます。日本からは週に一本直行便がありますが、殆どの日本からの便はバンクバー経由、そこで通関してからローカル便に乗り換えてやってきます。此処は日本人旅行者のロッキー山脈方面への出発点となります。

空港でのスケッチ
(1) おせっかい

  かつてはカルガリー空港に日本観光客が来るのは夏だけでした。夏になるのを待っていたように日本から観光客がどっと押しかけてきました。ところが最近は一年中切れ目なしに押しかけて来るようになりました。こうした日本人旅行者を見ていると日本人独特の姿が浮き彫りにされて面白いものです。始めのうちは日本人の姿を見るのが懐かしくもあり好意をもって眺めていたのですが、最近はその日本人独特の行動に脅威を感じるようになってきました。団体で傍若無人にどかどかと押しかけて来るのがまず異様です。しかも団体の中だけに一つの世界を作ってしまい、外との接触の無いまま空中をさまようシャボン玉のごとくカナダの社会を漂ってゆくのです。
 夏休み中娘二人が空港の土産店でアルバイトを始めました。彼女らがまず驚いたのは日本人観光客の買い物の仕方です。旅行中のことであり多少は財布の紐が緩んでいるとは言え、二千ドル、三千ドルの買い物をいとも簡単にやって行きます。しかも余り考えずに買っているように見えと言います。どんなに高価なものでも一人が買うと連鎖反応のように数人が同じ品物にどっと飛びついてくるようです。また、高価な毛皮を一人で二枚も三枚も買ったと目を丸くして話します。彼女らにとっては貧乏な親たちと違う全く新しい日本人の発見だったのでしょう。
 ある日上の娘が憤慨して帰ってきました。今日はものすごい「オバタリアン」に当ってしまったと言います。最近はワーキング ホリデーでやって来る若い日本人とも一緒に働くのでこんな新しい言葉も覚えるようです。娘達は多少英語のアクセントがあるにしても、かなりの日本語を話しまた理解もします。ところがその日は日本語のことでオバタリアンにひどい目に遭わされたと言うのです。
 そのオバタリアンは最初娘に商品の説明を求めてきました。娘は「変な日本語」を使った訳でなし、相手は確かに理解し納得したと思うというのです。ところが次の人が娘の所へ説明を求めてきた時「あんたその娘は日本語がわからないからだめよ」とわざわざ遠くから忠告にしゃしゃり出たと言うのです。それも一人だけなら許しも出来ようが、そのオバタリアンは店の中にいる間娘の所にお客が近づく度にその忠告を繰り返し、ついにその団体では商売にならなかったと言う。相手の気分を損なうような事をした訳でもないのに、どうしてなんだろうと首を傾げていました。
  その様子を聞いているうちに独断し、それを主張してやまない日本の中年婦人にふっと懐かしさを感じた次第です。何か常ならぬことを発見すると大げさに反応してしゃしゃり出る日本人中年女性の的外れのおせっかい。娘の多少英語がかったアクセントの日本語が彼女にとってたまたま「常ならぬもの」になったのでしょう。少しアクセントのある日本語を日本語で無いとしてしまう独断。しかもそれを新しい発見として強調したかったのでしょうか。外国に来たと言う多少の優越感。それに相反するこの土地や人々への、また言葉への劣等感。これらが交じり合う複雑な感情が無意識にこのような行動として表現されたのかも知れません。
 ヨーロッパ人もアメリカ人も時には団体で来るのを見かけます。これらの国の旅行者に比べると日本人の団体旅行者は変な具合にボルテージが高いようです。このボルテージの高さが日本人をして、カナダ人が目をむくような行動に走らせるのかもしれません。一方、カナダに住み着いている者がその行動に恥ずかしさを感じるのは身内としての厳しさかもしれません。これは三十年余日本の外に住んでいても日本人であることに変わりない証なのでしょう。

写真1、南アルバータはカナダ大平原の真っ只中。広い空の下に草原が無限に広がります。遥か彼方は隣の国アメリカです。この草原にカモシカの一種、プラグホーンが群れていました。いつも人間から安全距離を保っているので普通のカメラでは点にしか撮れませんでした。
   (1980年8月撮影)

写真2、紅葉の中のカルガリー市。丸い水平線と広い空。平原の中に孤立するカナダ第三の”大都市”です。
   (2000年9月30日、Nose Hillより撮影)

写真3、雪のMoraine Lake。夏の顔と違った厳しい表情をしています。雪が降り始めるとこの湖への道路は閉鎖になります。幸いにも閉鎖寸前に入って撮影する事が出来ました。
   (2002年10月1日撮影)