高8 塩澤千秋 (カナダ カルガリーから)
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約一月かけて洪水の後始末も大部分終わりました。まだ、車庫には捨てなければならないものが山済みになっていますが、人間の住むところは何とか整備することが出来ました。いくらやわらかいソファーでも寝心地はベットにはかなわないことを知りました。今日は日中マイナス24度、最高気温マイナス20度、最低気温マイナス29度。パウダースノーが降り、いつの間にか積もっています。ここ十日ほどは厳しい寒さが続き本物の冬が戻ってきたようです。車庫の片付けはもっと暖かくなってからになりそうです。楽しみを少し残したようなものです。
(March 7, 2003)

 氷河をわたる風(21) Alpine Buttercup
飯田高松高校山岳部に入り、一年生の夏南アルプス全山縦走に参加しました。初めての高山、登るのがこんなにしんどいものかと初めて知り、  もう来るものかと思ったのですが、以後登山は病みつきとなりました。二日目に登った東岳の斜面がこの花の群生で谷の底まで隙間なく覆われていたのを思い出します。頂上を目前にして疲れ果ててこの花の中にひっくり返って見た空はあくまでも青くありました。時に痛烈な皮肉を飛ばす、私の好きだった英語の先生が、あるクラスで生徒に英語を読ませた時、buttercupに訳文を振ってあったらしく、英語を読んでいるときその部分を”きんぽうげ”と読んだと苦笑いしながら話してくれました。お陰で、ButtercupはCherryの次に覚えた英語の花になりました。


ロッキーでもAlpine Buttercupはどこにでも見られます。群生しています。そして高度が高くなるに従って草だけが短くなってゆきます。
花だけが地面に張り付いたようなのも見ました。花の形も少しづつ変わるようです。厳密に言えば亜種として分類されているかもしれません。バターそっくりな色をしているのでButtercup と命名されたのしょうが、いかにも即物的です。日本語の”きんぽうげ”のほうがいかにも詩的です。英語には可愛い娘と言う意味もありそうです。

 

 

写真1.Ptarmigan
Circuitに登る途中の林の中で見付けました。素晴らしく光沢のある花びらです。(1999年7月21日撮影)
写真2.二年ばかり後ですが同じ所をさらに登り森林限界線の上まで出るとかなナスキスの山を背景に可憐な花が群生していました。花びらが少し丸みを帯びています。(2001年7月1日、Ptarmigan
Cicuitにて撮影)
写真3.コロンビア アイスフィールドの近く、Paker’s
Ridgeを登り、上の段中腹辺りに土にへばりつくように咲いていました。あたりはまだ雪に覆われていました。(1999年7月19日撮影)

2.オーロラ
青白く耀き揺れ動く光のカーテン。厚く三段に北の空に宙釣りとなっています。光はじっとしていません。前方に耀いていた光の塊がスーッと消えたと思うと右手の中空に突然濃い緑の線が現れます。左手にゆらりゆらりと漂うような光があるかと思うと思わぬ所から光が線となり槍となって走り出します。そしてたちまち広がり面となり塊となります。頭上にドーム状に放射線となって広がる光のすじ。線となった光が旋回し揺れ動く。風が姿を現したのでしょうか。ゆらりと激しく身を翻して音のない世界へスーッと消えてゆきます。
バンフからの帰りでした。真夜中に近い。ドライブをしながら何気なく目をやった北の空に広げられた光の饗宴。オーロラが現れていたのです。ハイウエーの街灯や町の灯など邪魔する光のないわき道に自動車を入れました。天空の大半を覆うほどの規模です。今までにこれほどの大きさのものは見たことがありません。星の姿が薄れてしまうほどの光の量です。
少し前娘と見に行ったオーロラも凄かった。午前二時頃何気なく目をやった北の空が薄明るい。オーロラだ。町外れの牧場へドライブします。頭上に、ドーナッツ状に浮かぶ緑がかった、にじみ出るような青白い太い光。規模はそれほどではないのですが形がめずらしく、はっきりした輪を描いていました。美しかったのは数年前アルバータ州の北東の隅にあるコールドレイクで見たオーロラです。友人家族と釣りの旅に出たときでした。湖畔にキャンプした夜、赤色をした上下二条の帯状カーテンが北の空に現れました。夕焼け雲と見間違うほどの強い光でした。激しく揺れ動きます。余りの凄さに湖畔の岩に腰を下ろしたまま動けなくなってしまいました。中天からは青白く明滅する光が一点から放射状に延びています。幸運にもこのようなオーロラを二晩続けて見られたのです。子供達に見せようと思って呼んでも揺り起こしても一人として起きて来ません。昼間暴れたため相当疲れたいたのでしょう。それにしても欲の無い事よ。ところが朝オーロラの話をすると、一斉にどうして起こしてくれないのよと言う。何ともはや。
オーロラは北に行くほど観察しやすく色彩が豊かになってきます。北極圏に入ると虹色をしたオーロラが中天から垂れ下がるのを見られるそうです。ある日、大学病院の食堂で私をエスキモーと間違えて話し掛けて来た、北極圏の町イエローナイフから来た若い看護婦が話してくれました。垂れ下がった光のカーテンから音が聞こえてくるような凄さだと言います。他の人は音など聞こえるはずがないと否定しますが、彼女はパチパチと言う音を聞いたそうです。
生まれて始めてエドモントンで見たオーロラは雲と区別のつかないほどの薄い小さなものでしたが、大いに興奮しました。オープンシアターで映画を見ている時に一緒に行った友達が見つけ、映画そっちのけで光の少ない郊外まで大急ぎで車を走らせました。エドモントンに住む仲間は、似たり寄ったりの同じ境遇の留学生であったので誰かがオーロラを発見すると真夜中でも何でも電話を掛け知らせあいました。中には寝入りばなを叩き起こされて寝ぼけ声で苦言を呈する人も居ましたが、大概は良いチャンスをお互い喜び合ったものです。そんな知らせを受けた時には寝ている女房殿をたたき起こして、麦畑というわけではないが、暗い畑の方へ夜のドライブとしゃれ込んだものでした。
オーロラは一年を通じてかなり頻繁に出ると言われます。ただ、弱い光であるので観察できる条件が難しく、暗く、晴れた空でなければなりません。したがって観察のチャンスがそれほどのあるわけではないのです。また緯度にもよります。北極圏が最も良く、カナダではイエローナイフとかフォートマクマレーなどの町には日本からオーロラツアーがあると聞きます。ある日日本から凄いオーロラの写真がインターネットで送られてきました。日本の友達からでした。彼はオーロラを見にフォートマクマレーまで父親を連れて来たとの事でした。カルガリーに長く住んでいてもめったに見ることの出来ないあざやかなオーロラでした。小規模なオーロラはカルガリーでも結構観察できますが、北極圏に出る大規模なものはやはり現地に行かないと見られません。ところがここに住んでいるとそんなツアーに参加しようと言う気がほとんどの人に起こらないのです。日本から来た旅行者の方があるいはカナダに住む人より凄いオーロラを見ているかもしれません。
北極圏を外れると南に行くに従ってオーロラは観察しにくくなり規模も色も小さく褪せて来ます。カルガリーはエドモントンから南に三百キロ寄っただけですが、オーロラを見るチャンスがずっと少なくなったように感じます。一般的に昼間暖かく、夜、気温が急激に下がる晴れた秋や冬の夜は、オーロラを見る絶好のチャンスなのです。(夏は昼が長くて中々チャンスがありません)。そんな夜はベットに入る前に、裏窓から北の空を注意して見ることにしています。ある夜、裏窓から見つけたオーロラをデジタルカメラで撮影したものを入れておきます。実を言うとオーロラの写真は条件が難しくて中々撮れませんでした。光が弱い上に揺れ動くからです。良い写真をとっている人も居るので、私もフィルムを使って幾たびか挑戦しましたが全部失敗しました。撮影した結果が一週間後では条件の設定が中々出来ません。その点、デジタルカメラですと其の場で結果がわかります。私のカメラの最大露出時間8秒でやっとこんな写真が撮れました。このデジタルカメラ、条件の変更があまり出来ないのです。もう少し長く露出できたらもっと良くなるのでは。だから、オーロラの良い写真を撮っている人を尊敬してしまいます。

写真3枚: 2001年4月18日午前2時頃、ベットに入る前にちょっと見た北の空にオーロラが揺れ動いていました。4月と言えばここではまだ寒い時期ですが窓を大きく開けて、三脚を据えデジタルカメラで色々と条件を変えながら写し、初めてオーロラの撮影に成功しました。写真の中に青白い点が見えますがこれはごみやしみではありません。星です。初めはこの点を見つけて撮影に失敗したかと思いましたが良く見たら北斗七星の形が見え、初めて星も映ることを知りました。三枚の写真で少しづつ変わっていくオーロラを楽しんでください。