高8 塩澤千秋 (カナダ カルガリーから)      [塩澤さんへの質問や感想はこちらへ] cshio@shaw.ca

 飯田は若葉が茂って美しい季節でしょうね。風越山の中腹はひときわ淡い緑で彩られている事でしょう。眠たくなるようなのどかな季節、一番良い時ですね。カルガリーはようやく雪が解けたところ、周りはまだ枯れ野です。緑に埋もれた飯田では想像できない事でしょう。それにまだ時々雪も降ります。初めての雨が昨日でしたが、暫くすると雪に変わりました。花はまだ現れず、庭先の一番暖かい所にチューリップがやっと芽を出しました。ただ、野原には今頃プレーリー クロッカスが咲くはずですが、今年は膝を痛めて外に出られずまだ見に行っていません。多分ボー川の土手には春が来ている筈です。   (April 30, 2002)

 氷河をわたる風(12) Prairie Crocus
北国の冬の終わりは、思わせぶりで中々去りません。厳冬のはずの時期に暖かかったのでこれは春が早く来るかと期待していると、春の近くになって雪が降り続いたり、いこじになって氷点下20度まで突然気温が下がったりします。そんな不安定な時期この辺で春になったかなと感じる時、最初に見つかるのがこの花です。名前の通り高山では見ませんがカナダ大平原に春一番に咲く花です。
 大きさは福寿草くらいです。土からいきなり花が咲いた感じです。葉っぱは後から出てきてその頃には花は終わって毛槍のような実に変わります。タンポポに似た小さな実で細い毛に乗って飛んで行くようです。平原一面に群生して咲きますが、その頃、白鳥の渡りの第一群が平原の中の沼や川に到着します。平原にまで勢力を広げていた氷河の風はロッキー山に追い上げられ、平原は一気に春になります。
    (2001年4月18日市内ボー川の土手にて撮影)

春2.新婚さん達

 春の終わる頃のロッキーの山々は美しい。湖は、まだ白く凍結していて空の青さを映さないけれど、山々は厚く雪に覆われ青空を背景にくっきりとその輪郭を現します。稜線が鋭く、ずっと身近に迫ってきます。
(写真;初春のLake Louise 1973年撮影)
(奥の白い山は氷河に飾られたVictoria Mountainです。) 

 レイク・ルイズも同様この時期まだ凍結していて、その背景のヴィクトリア氷河はたっぷりと雪に覆われ、氷河特有の青い氷は厚ぼったい雪の下辺に微かに見えるだけです。遊歩道の両側は掻き揚げられた雪が壁を作っています。この時期、日本からのお客さんは新婚さんが多いのです。しかも団体でやって来ます。五・六組のほやほやのカップルが、一人のツアーガイドに連れられて数日を共に過ごすのですが、ガイド達にとってはなかなか難儀な仕事のようです。新婚さんたちを案内できて楽しいだろうとからかうと、不思議な事に真面目な顔になって、あれほど嫌なガイドはないと言います。大変デリケートなトラブルが多いからだそうです。部屋の配分を間違えた夜は、一晩中壁越しのアツアツに悩まされ、時には最初の夫婦喧嘩の仲裁に狩り出される事もあるそうです。花嫁さんが夜中間違えて他のカップルの部屋に入り、しばらく気が付かずにいてトラブルを起こしたとか。思いもかけない不思議なことが起こるそうで、こんな事もガイドが総てさばかねばなりません。この集団新婚旅行は日本人独特のものです。結婚直後のハニムーン。誰にも邪魔されずに二人だけで過ごしたい時期に、何故他人と一緒に、しかも一週間近くも旅行しなければならないのか、カナダ人にはどうしても理解できない日本人の行動の一つでしょう。
 シャトー・レイク・ルイスはロッキー山中で日本人に最も良く知られ、日本人が好んで泊まるホテルの一つです。ある春の日、研究仲間を案内してこのホテルに泊まったことがありました。夕食を済ませてバーに入ました。日本人旅行者は、英語を使っての注文などが面倒なのか、普通こうしたバーには現れません。意外な事にその日は十人ほどの若い日本人グループが固まっていました。こうしたグループで観察される、互いに牽制し合う変に高ぶった声があがらず、なんとなく慎ましやかです。互いにそれ程親しさを示し合っていないようでした。皆、ガイドらしい男の実にありふれたカナダについての説明を熱心に聞いています。それにしても、この一団の静かさはなんとなくぎこちない。
 やがて、男女の数が半々である事に気がつきました。これが有名な日本からの集団新婚旅行だったのです。一緒に居た日本からのお客さんが喜んで眺めていたところからすれば、お膝元の日本では起こりえない、日本人の海外独特の現象なのでしょう。カルガリー空港の土産店にもこうしたカップルが現れます。新婚である事は直ぐわかるようです。「今日の新婚さん、お土産選ぶのに喧嘩していたよ。」「今日の新婚さんのハズバンド、ものすごく威張っていたよ。」 店でアルバイトをしている娘達が目を丸くして報告する。人前で夫婦喧嘩するのはカナダでは離婚間近のカップの証拠ですから、娘達には非常な驚きであるようです。ただ困るのはこうした観察から、日本人とは結婚したくないと言う短絡的思考をする事です。旅の終わりで互いに疲れているのだから、喧嘩しても仕方ないではないか。いや、新婚で喧嘩は絶対にありえないと彼女らは主張してやみません。勿論こんなカップルばかりではなく、若い娘達を羨ましがらせる素晴らしい新婚さんもいますが、しかし、日本からの新婚さんたちの大半は、娘達から良い点は貰えないようです。特に男性に対して点数が辛い様です。
 こうした集団新婚旅行の多くは、日本に帰ってからも付き合っていくとのことです。しかし中には、カナダに来た時と帰る時とで違ったカップルになっていたと言う嘘のような話も聞きました。朝になると、新婚の嬉しさか、昨夜の疲れか、夢うつつのカップル達を乗せて観光バスは出発します。やがて彼らは、雄大な景色の中で甘い夢を結んで、喉を枯らすガイドをがっかりさせるのです。